斉藤ゆき子STORY

「社会全体に音読を広めていきたい」

そんな思いを抱き、ソフィアの森を運営。
「音読で社会をよくする」ための社会貢献活動として、協会を設立し、音読指導者を全国に増やし、災害の被災地などを中心に朗読公演を行なっていきたいと考えている。このプロジェクトの根底には、「一人でも多くの子供たちに、コンプレックスをなくし、自分が輝ける場所を見つけてほしい」という思いがある。
そんな夢を前に、どうしても言葉にしておきたいことがある。

小さい時、言薬が遅く、思うように話せない、人一倍感受性が強く、自閉気味だった。

3歳児健診で、あなたの好きな食べ物は?と聞かれて、大抵はいちご、だのバナナなど言う中で、私が呟いたのは、「ごぼう」。
周りの大人たちに爆笑され、ずっと言われ続け以来口だけでなく心も閉ざすようになった。

そのターニングポイントになったのは中学時代の放送部、ためていた言葉が堰を切ったかと思うほど出てきた。声がいいと褒められた。放送を一生の仕事にしたいと思った。

卒業後。局アナになれず、司会の仕事やアルバイトでつないだ。
この仕事は向いていないのではないかとくじけかけていた時に、第二のターニングポイントがおとずれた。
破れかぶれ、楽しく元気に笑顔で仕事をしていた姿に、「才能がある」といってくれた舞台監督。

ほんの小さなきっかけで、自分の生きる道を見出すことができたと感じる。
一見、先が不可能に見えることでも、ずっと継続していれば、道は見出せると知った。
その道は、当初思い描いていた道とは違う景色に見えるかもしれない。
それでも必ず道は開けるし、その道は振り返ってみると、巡り巡って当初の思いとどこかでつながっているのではないかと考えるようになった。


10年前、誰も怒られず、その人の個性を引き出し、みんなが楽しくてポジティブな気持ちになれる朗読教室を作りたいと思いたち、朗読の中にコーチングのエッセンスを練り込んだ、独自のカリキュラムを完成させた。

その人の個性を引き出し、みんなが楽しくてポジティブな気持ちになれる教室にしよう。
一人一人に向き合い、その人の良き個性を輝かせ、塾生に真剣に向き合う中で、ソフィアの森は「人生を変える奇跡の朗読教室」と評判になった。

朗読をちょっと習ってみようかな、と軽い気持ちで訪れた方が、いつの間にかプロを目指すまでになった。
俳優養成所で「苦手な朗読をなんとかしたい」と言っていた方が、ステージで立派に朗読できるようになっている。
目指すものがない、と言っていた方が、今ではボランティア貢献している。
滑舌が全くダメだった方が、事務所に所属して年間多数のミュージカル舞台に立てている。
わずかしか採用されない特殊技能の公務員の試験に見事突破できた。

そんな塾生の喜びが溢れるようになった。

そして2017年、NHKからお声がけをいただき、当教室はNHKドラマ「この声をきみに」のモデルとなった。
竹野内豊さん演じる「冴えない大学教授:穂波 孝」が、朗読との出会いを通じて自分の今までの生き方を見直し、人生の捉え方を変化させる物語である。
麻生久美子さん演じる「京子」は朗読教室を運営しており、そこにはたくさんの個性的な生徒さんが集まる。
そんな素敵なドラマのモデルとなったのだ。

これをきっかけに、「朗読には、声を出して表現することには、人の人生を変える力がある」ということをより一層確信するようになる。

2019年には自身の初の著書である「奇跡の朗読教室」を出版。
実際に見て体験したエピソードをもとに、生徒さんが朗読を通じて生き方を変えていく21のストーリーを綴った。

一方でソフィアの森には通常のレッスンに加え、ワークショップにも全国からたくさんの受講者が集まるようになった。

蓋を開けてみれば、集まってくる人の8割はお母さんたち。
自身がコーチになろうと決意したきっかけとなった、"親育てをしたい"という思いが、ちゃんと叶えられる場ができていた。

今、"音読"を全国の学校に広めようと考えているその背景には「何も自信をもて
なかった子たちに、音読を通して自分の好きなもの、自信のもてる何かを見つけてほしい」という願いがある。

今の学校教育を見ていると、子供たちは褒められていないなと感じる。
あと一歩、彼らの小さな個性を見過ごさず、
"すごいね"、"知らなかった、教えて?"などと声をかけることで、その子の人生がガラリと変わるような自信の種に出会うかもしれない。
あるいは褒められたことで、人を褒めることのできる子に育ち、温かい連鎖を生むかもしれない。
音読を通して、そんな体験を多くの子供たちに届けたいと考えている。

自分がどんな言葉で表現することで、舞台でその子を輝かせられるかをひたすら考えた。
そうするうち、私の生きる道はここにあったということに気づいた。

その夢を実現する一歩として、現在は「音読指導士」の育成に取り組んでいる。

自身の全てのエッセンスを詰め込んだ「朗読オンラインプログラム」を制作。
基礎編・応用編・インストラクターコースを用意し、所定のプログラムを終了した受講生のうち、試験合格者が「音読指導士」として活動できる。
2022年5月現在ですでに11名が音読指導士として活動を開始しており、年内には新たに9名が誕生予定。

自身をアップデートさせつつ、同志を増やし、
ソフィアの森の活動の場は今後さらに拡大していく予定だ。